石を知り尽くすベテラン職人、野木秋光さん(77歳)の工房。自作した小型の切断機や研磨機などが所狭しと並ぶ。
日本を代表するワイン産地として知られる山梨県。そのほぼ中央に位置する甲府市は〝ジュエリーの街〞と呼ばれるほど宝石加工業が盛んな地でもある。かつて、同市北部を中心に良質な水晶が採掘されたことから、水晶加工技術の発達とともに明治のはじめごろに地場産業として振興。明治末には山梨県産の水晶はほぼ枯渇したが、海外から輸入した水晶の原石を使いながら加工技術は継承された。
戦後の高度経済成長期にはダイヤモンドやルビー、サファイヤ、エメラルドといった宝石の加工や製品化も盛んに行なわれ、1000社を超えるジュエリー関連の業者が互いに切磋琢磨まし、その技術を高めていった。
今回紹介する2種のブレスレットも、甲府市で石の加工ひと筋60余年の熟練職人、野木秋光さんが原石からひと玉ずつ削り出した逸品だ。ひとつは新潟県糸魚川市を流れる姫川の支流、小滝川周辺で採取された翡翠(硬玉)。もうひとつはカラコルム山脈にある世界第2位の高峰・K2(8611m)の麓のみで産出するK2ストーンと、ヒマラヤ山脈で採掘された水晶を素材に使用する。糸魚川産の翡翠は昭和31年に国の天然記念物に指定され、現在、採掘・採取は禁止されている希少な貴石。一方、グラナイト(花崗岩)に青いアズライト(藍銅鉱)が入り交じったK2ストーンは採掘が非常に困難で、流通量も極めて少ない。
「それぞれの原石が持つ特徴を活かし、ひとつひとつが生き生きと感じられる作品作りを心がけています。天然石は色や模様の入り方がそれぞれ異なるうえ、傷や亀裂などもあります。それらを確認しながら、良質な石を見極め選別していきます」(野本さん)
製作はまず、加工しやすいよう原石を板状に切断する。その際、断面に細かな傷や亀裂、変色した部分が現れることがある。そうした不要な部分を、小型の切断機でスライスするように丁寧に削り取っていく。「この作業のよしあしが、完成品の美しさを大きく左右する」と語る野本さんは、切断機やグラインダー(研磨機)も使いやすいよう工夫を凝らして自作したというから驚きだ。
「うちでは糸魚川産翡翠とK2ストーンの原石を相当量確保していますから、さまざまな形や大きさに加工することが可能です。どちらも10mmと大振りの玉を贅沢に使っているので、希少な天然石ならではの美しさを堪能していただけると思います」
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原石の断面に入った亀裂や変色部分を見極め、切断機に備わるダイヤモンドの回転刃でカットする。
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サイコロ状に加工した翡翠。この後、研磨機でひとつずつ角を落として丸玉へと形を整える。
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磨き上げた翡翠の玉。同じサイズとランク(質)に仕分け、色を合わせながらゴムに通していく。